イベントレポート「ゼロから始めるCommon Lisp入門」
1月9日に関内で行われた「ゼロから始めるCommon Lisp入門」へ行ってきました。参加を逃してしまった人は、大阪でも開催を予定しているのでぜひともそちらにご参加ください!
ゼロから始めるCommon Lisp入門(関西) | Peatixpeatix.com
講習会の簡単な紹介
Common Lispを広めるために企画された講習です。 プログラミングしたことはあるけどCommon Lispは触ったことない人(あるいは初心者)向けや、人工知能ブームのときに流行ったLispに興味を持つ人向けを対象にしていました。
開催地域である関内
みなとみらい線で、馬車道駅から降り立つと、洋風な建物に囲まれて驚きました。関内は、外国人居留地として有名*1なので、その影響ですね。
講習会会場
講習会の会場は、奉生ビル2FのさくらWORKS<関内>です。かっこいい人が受付を担当していました。のちの紹介でその方は、#:g1: frontpageのブログ主だということを知ります*2。
講師の小出さんからは、「Lisp考古学者」と呼ばれていました。長い歴史を持つLispの過去を題材に多くの記事を書いている方です。去年の12月には、レトロLisp アドベントカレンダーを一人で25日間書ききっています。すごい! qiita.com
講習会参加者の年齢層
大学4年生から、60歳くらいまで異様に広い年齢層の方が参加されていました。僕と隣席になった方は、僕と25歳も年齢が離れていて驚きました。歴史の長い言語だとこういうことがあります。若い方はごく少数で、多くの方が40歳以上に見えました。
講師の人工知能学者: 小出さん
Wi-Fiとメモをセットアップして、待機していると初老の男性がスクリーン前で話を始めました。講師の小出さんです。
小出さんは、人工知能を研究している方でオントロジーを実現普及するために精力的活動を行っています。 また、Linked Open Data Initiativeの監事を務めているようです。講習会終了後に開催された交流会では、Linked Open Dataに対する強い思いを聞くことができました。
小出さんは、Common Lispを広めたいという思いが強く、要望があれば無料でも講習会を開くとおっしゃっていました。今回の講習会は一般2000円で参加料を集めていますが、会場費に充てているそうです。
Common Lispと人工知能
講習は、Lispの説明から始まります。なぜ今Lispなのか、Deep Learningは結果が説明困難であるとか、Lispと人工知能を取り巻く環境について小出さんは語ります。人工知能研究界隈でのこぼれ話やDeep Learningはどう思われているのかなどの話が、研究者視点の話が聞けたことに感動しました。なかなか聞く機会ないですもの。
Common Lispを触る環境
今回、選ばれたCommon Lisp開発環境は、Allegro CLです。僕は普段Vim+slimvでSBCLを使っていいます。この講習会で初めて商用のCL環境を使いました。
macOSユーザは、事前準備しておいたほうが良い
Windowsでのインストールは簡単のようでしたが、macOSへのインストールには手こずりました。隣席の方は、非常に苦しんでいたので途中でWindowsに切り替えるなりして対応していたようです。もし、参加される方は予めインストールを試しておくと講習がより楽しめると思います。
macOSへのインストールは明らかにインストール手順が多いので注意が必要です。英語読みながら、terminalを利用するので、プログラミング経験が浅いと、かなり辛いと思います*3。
Emacs+SLIMEでも大丈夫
Common Lispの開発環境といえば、Emacs+SLIMEが有名です。もし、それが利用できる人は、そちらを利用してもまったく問題ありません。僕はVim+slimev(SBCL)を利用しました。
Emacs+SLIMEの環境を構築したければ、以下の記事が参考になります。Emacsというエディタを初めて使う人は、保存方法と終了方法、ESC(エスケープキー)を覚えておけばなんとかなると思います。詳しい操作方法はEmacsについて調べてみてください。
いざ、LISPに入門
最初に、Common Lisp特有の括弧の多さとポーランド記法に慣れてもらうために簡単な演算を教えてもらいます。(+ 1 2 3)
のようなものです。このような括弧で囲まれた文字列をS式とLISPでは呼びます。
インタラクティブな環境でプログラミング
S式を実際に評価するために、REPLを使います。REPLでは入力されたS式を評価し、評価結果を表示します。例えば(+ 1 2 3)
は6と評価され表示されます。このような1行1行入力して、インタラクティブに実行することができる環境はLISPが初めてだったと説明していました。
今では、RubyやPythonなど有名なプログラミング言語にもインタラクティブな実行環境が付随していることが多く、その点の優位性は薄いと補足していました。また、このインタラクティブな環境は、手探りだった人工知能研究で求められて開発されていたものだと聞きました。探索的プログラミングと呼ぶらしいです。トップダウンに設計し、実装する従来の方法と対になっています。
人工知能とLISPの歴史は、小出さんの論文を読もう
人工知能とLISPの歴史は、小出さんの解説論文「人工知能用言語Lispの今と将来」が詳しいです。実はこの論文、講習会の各個人の机の上に用意されていて、参加者は1部ずつもらえました。
LISPの論文を手に入れた pic.twitter.com/03oC7YQRSF
— ( ˘ω˘ (@tamanobi) 2017年1月9日
手をたくさん動かす講習会
講義自体は、解説と演習の繰り返しで手を動かして身につけるフローが徹底されていました。実際に手を動かしまくるところに、探索的プログラミングの一端を感じます。
はまりどころをしっかり教えてもらえる
Common Lispは仕様が膨大だということもあってハマりどころは多いです。小出さんはそこのところをしっかりと教えていました。例えば、命名規則が曖昧な部分があってnullp
とnull
どちらが正しいかわからなくなること、nil
と'()
(空リスト)はCommon Lispでは区別できないことなど、必要となるタイミングで説明してくれていました。
講習会で取り扱ったトピックは、再帰まで
講習会ではCommon Lispの以下のトピックを扱いました。最後の再帰呼び出しの箇所はそれなりに難しく、プログラミング初心者からしてみたらつらいだけだったかもしれません。
- Allegro Common Lisp Expressの導入
- シンボル・S式
- 演算・数学演算・関数定義
- setqと副作用
- リスト操作(list/append/consなど)
- 連想リスト(assoc)
- 条件分岐(if/cond/case)
- 述語(listp/atomp/endpなど)
- 再帰
講習会の内容は、小出誠二さんが電子書籍として出版された『Common Lisp と人工知能プログラミング』に基づいています。再帰まで行くと3章の最初まで到達できたことになります。
質問タイム
再帰呼び出しまで駆け足気味で、走り抜けたあと質問タイムが設けられました。
そこでは、人工知能プログラミングに期待している参加者は多いようで、LISPでどのような人工知能が作れるのかという質問をしていました(まぁ、そうなるよね)。プログラミング言語としてのLISPの優位性についても議論が白熱し、参加者の関心は高かったようです。
実践導入したいという参加者からの声の中で、Excelで使えないだろうかという素朴な疑問を耳にして、その積極性に圧倒されました。Common Lispではないですが、JVM上で動くClojureというLISP方言があります。JVMで動く恩恵を受け、Javaライブラリを使えばそこまで難しくないでしょう。
質問は意外にも多く、寄せられてかなり活発な雰囲気で、会場は交流会へ移りました。
交流会
講習会は終了して、近くの居酒屋に入りました。講習会から交流会に参加したのは8名ほどでした。ソーシャルゲームのバックエンドをLISPで書いている話や、単語共起分析の手法をLISPで行うにはどうしたらいいかという議論や、LISPのプログラミング言語としての優位性(再来)、Deep Learningのチューニングの話、Shibuya.lispや実践Common Lispの話、Linked Open Dataの話、横浜市のウェブサイト制作が大変な話、とある大学生の人生相談、LISPのデプロイメントシステムの話など、とんでもなく広い話題で盛り上がりました。
人工知能研究でLISPが実際にどのように使われているかとか、LISPで動いているソフトウェアなど聞きそびれた話題はたくさんありますが、楽しかったです。
ただ、入った居酒屋のガーリックフライドポテトがあまり美味しくなかったことが残念でした。
講習会の感想
僕が受講して感じたことをまとめます。
大学の講義みたいだった
講習会の内容は、小出誠二さんが電子書籍として出版された『Common Lisp と人工知能プログラミング』に基づいています。コラムをはさみながら、テキストを順に追うため、刺激が少ない印象を受けました。
講習会の初めに、LISPが使われている具体的なプログラムを紹介したり、コツコツとした演習が将来的に役立つ姿を想像させるような講習の作りにすると初心者が興味を持ったまま、受講できるような気がします。
時間的な都合でしようがないですが、マクロの話がなかったのも少々残念です。
プログラミング中級者向け
Common Lisp以外のプログラミング言語で実際にプログラムを作った経験がないと、講習をスムーズに受講するのは難しいように感じました。
LISPの重要な面白みである、再帰プログラミングへ受講者を導くために後半はかなりハイペースで進行していたためです。再帰プログラムなどは、さくっと解けるものが少ないので、初心者が食らいつくのはかなり大変そうでした。
また、一度置いて行かれてしまったときに、電子書籍『Common Lisp と人工知能プログラミング』を購入していないと、テキストを参照する方法がないので、おいていかれるとかなり辛い思いをします。
丁寧にスタートできる
プログラミング言語や、新しい物事にチャレンジするときは、参入障壁を取り除くことが重要です。特にCommon Lispは日本語文献が多くなく、入門しようとしても本は絶版だったりと、なかなか挑戦しづらいプログラミング言語です。その点、この講習会では開発環境の導入から、電子書籍の紹介や基礎の基礎からの講習を教えてもらえるので、「やりたいんだけど、手が止まっている」ような人にはもってこいだと思います。
ただし、内容は書籍を順に追う形になっています。ひとりでもくもくと書籍を進められる人には、この講習は不要かと思いました。もちろんたくさんのLisperと出会える機会ですから、参加する価値はあると思います。
要望
講習を終えた感想を踏まえて、要望をまとめます。
- Allegro Common Lisp ExpressをmacOSへインストールするのがめんどくさいので、あらかじめ入れてきてもらったほうがよさそう
- プログラミング初心者へ講義するなら、実用例を紹介してからコツコツと基礎を教えるとよさそう
- 講習を終えて、今後どのような勉強をすればいいのか、参考文献を示してほしい(『実践Common Lisp』や、『Land of Lisp』、『実用Common Lisp』など)
- 最近のLisp界隈の雰囲気など紹介してもらえると嬉しい
「ゼロから始めるCommon Lisp入門」のまとめ
- この講義で人工知能プログラミングが身につくわけではない
- 基礎からCommon Lispを教えてもらえる良い機会
- 人工知能とLISPの関係について知ることができる
- Common Lispに触ってみたいプログラミング中級者におすすめ
- Common Lispの最新事情(roswell)に詳しくはなれない